Vol.3「心臓・自転車・らしさ」
(有)らんでっく/永田 実

ちょうど5年前、仕事中に頭がクラクラ・グラングランし、まるで二日酔いと船酔いが同時に起こったような症状に襲われ、少しの間、机にうつぶせて休めば治ると思っていたのが何時間たっても変わらず、ますますひどくなっていく。
人間の本能は凄いもので、これは尋常なことではなさそうと妙な予感と胸騒ぎ、病院嫌いのため20数年も行ったことが無い病院へ駆け込んだ、というより倒れこんだ。看護婦も一見して急病人と分かったようで、大嫌いな待合でジッと待っている時間も無く、お爺ちゃん大先生の診察。血圧を測られ「今まで何しとったんや!」と一喝。「仕事してました!?」「普通は立っとられへんで!」またも一喝。
有無を言わさず、舌下錠剤を口にほり込まれ、どたばたの診断結果は狭心症・高血圧。
あとで判った錠剤の正体は、ニトロでした。
それから約半年間、検査の連続、たいそうな手術も無く、降圧剤を服用するだけでとりあえず事なきを得た。
贅沢なもので、薬で症状が安定すると、今度は薬をやめたいと素人考えで、心臓、高血圧にはスポーツやろ!何かしようと思い立ったのが、20数年ぶりに自転車に乗ることだった。
「これからは自転車や!薬代、病院代と思ったら安いモンや!」家内を説得、いやほとんど強姦状態で、あこがれの自転車を手に入れる。まるで初めて自転車に乗れた子供のときのように、天気さえよければ毎朝20キロのロードワーク、休日には自転車仲間とカフェミーティング、気候のよいときは100キロのロングラン、自転車に乗ってドーパミンがドパーッと出て、精神衛生にも抜群にいい。一年後の病院での定期健診の結果は医者が驚くほどの回復、「心臓よくなりましたね!」体にい、心にいい、さらにもうひとつ。
車では気が付かなかった街の風景、点景、近景、情景、風情、情緒が感じるようになれたこと、国道2号の淀川大橋のなんと勾配のきついこと、午前と午後で風向きが変わること、歩道のなんと走りにくい構造であること、車道のなんと怖いこと、大阪市内でも新緑の緑、秋の紅葉のきれいな場所のあること、無機質な生産工場と化したオフィス街も休日には結構心地よい空間だったり、知っていたはずの街角がその時々でいやに新鮮に見えたり、手の届く範囲の小さな形、造作、ディティールに目が奪われたり、街並みのデザインは速くても自転車ぐらいの認識速度で作られるもの。近頃やっと風情、情緒が見えるようになった。
都市は人間の体で言えば脳、それも前頭葉、思考、判断などを司っている。体のその他の部位は都市に対して田舎で感覚、感性にねざしている。その感覚、感性は右脳側頭葉が制御しているらしい。信じられないような悲惨な事件が都市近郊で起こり、信じられないような人間像がメディアを賑わしている。現代は都市と田舎のバランスが狂い、日本人は前頭葉と側頭葉のバランスが狂い始めた。感覚、感性を失い、頭でっかちな人間が増えた。日々の生活に折り合いをつけ乗る自転車は、思考と感性のバランスを保つ体の触媒であり、その先に都市と田舎、さらに人間らしさと自然らしさの心地よい関係があるとこれからも思い続けたい。

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